福岡市内で親や親族が残した空き家を相続することになったものの、「固定資産税だけで年間10万円以上かかる」「老朽化が進んで近隣から苦情が来そう」「売れそうもない」といった理由から、相続放棄を検討している方は少なくありません。
しかし、相続放棄をすれば管理責任から解放されるというわけではありません。2023年4月の民法改正により、相続放棄後の管理義務の範囲は明確化されましたが、「現に占有している」場合は引き続き管理責任を負います。
また、相続放棄することで自動的に国が引き取ってくれるという誤解をしている人も多く見られます。
さらに、相続放棄の手続きには「やってはいけない順番」があり、解体や固定資産税の支払いなど、一見問題なさそうな行為でも、タイミングを誤ると相続放棄そのものが無効になる可能性があります。福岡市内では実際に、解体後に相続放棄を申し立てて却下されたケースも報告されています。
この記事では、福岡市内で負動産を相続した際の判断基準、相続放棄の正しい手順、管理義務から解放される唯一の方法(相続財産清算人の選任)、そして福岡市の空き家支援制度まで、実務で失敗しないための情報を体系的に解説します。
福岡市では空き家・相続・解体・税金が複雑に絡み合います。全体像を知りたい方は、まず「福岡市の空き家対策まとめ」も参考にしてください。
相続放棄の前に知っておくべき「負動産」の実態【福岡市の現状】
負動産とは、資産としての価値よりも、固定資産税や管理コストなどの維持費用の方が上回ってしまう不動産のことを指します。
福岡市内でも、旧市街地を中心に老朽化した戸建て住宅や、接道義務を満たさない再建築不可物件など、相続しても活用が難しい不動産が増加しています。
そのため、相続放棄を検討する前に、まずは自分が相続する不動産が本当に負動産なのか、客観的な判断基準を持つことが重要です。
福岡市内で「負動産」になりやすい不動産の特徴
福岡市内で負動産化しやすい不動産には、いくつかの共通した特徴があり、最も多いのが、築40年以上の木造戸建てで、すでに空き家期間が5年以上経過している物件です。
博多区や東区、南区などの旧市街地エリアでは、高度経済成長期に建てられた住宅が老朽化し、相続時にはすでに居住困難な状態になっているケースが目立ちます。
次に問題となるのが、接道義務を満たさない再建築不可物件です。建築基準法では、建物を建てる際には幅員4m以上の道路に2m以上接している必要がありますが、古い住宅地では私道や狭い路地に面した物件も多く、現行法では建て替えができません。このような物件は金融機関の融資も受けにくく、買い手がつかないのが実情です。
また、市街化調整区域内の建物も注意が必要です。福岡市では南区や早良区の一部が市街化調整区域に指定されており、原則として新たな建築や建て替えが制限されています。相続した建物を解体すると、再建築ができず更地のまま放置せざるを得なくなる可能性があります。
さらに、敷地境界が未確定の物件や、隣地との越境問題を抱えている物件も、売却が困難になりやすいため負動産化のリスクが高まります。






難しいと思いますが、再建築不可物件とは「自宅前の道路が非常に狭い家」のこと。
市街化調整区域とは、高速道路近くやイオンなど大規模モールがあるところです。
【実例】東区Aさんのケース再建|築不可×高齢化×草木問題で売却困難に
実際に福岡市東区で起きた事例をご紹介します。Aさん(50代・会社員)は、一人暮らしだった母親が亡くなり、東区内の築50年の木造戸建て住宅を相続することになりました。
この物件は幅員1.8mの私道に面しており、接道義務を満たさない再建築不可物件でした。母親が施設に入所してから約5年間空き家状態が続いており、庭の草木が隣地に越境し、害虫の発生も確認されていました。
近隣住民からは「草木をなんとかしてほしい」「蚊が大量発生して困っている」といった苦情が複数寄せられていたということです。
Aさんは不動産業者に売却査定を依頼しましたが、「再建築不可のため融資が受けられず、買い手を見つけるのは困難」との回答でした。
解体業者からは解体費用として約120万円の見積もりを受けましたが、解体しても更地として活用できる見込みはなく、固定資産税は更地にすると最大6倍に跳ね上がります。
年間の固定資産税は約8万円、定期的な草刈りや管理費用を含めると年間15万円以上のコストがかかる計算になりました。Aさん自身は東区から離れた場所に持ち家があり、母親の自宅に住む予定もありません。
最終的にAさんは、相続しても金銭的負担が大きく活用の見込みもないと判断し、相続放棄の手続きを選択しました。この事例は、福岡市内で実際に増えている典型的な負動産のパターンと言えます。
相続放棄を検討すべき判断基準(固定資産税・管理費・解体費)
上記のようなことにならないように、相続放棄を検討する際は感情的な判断よりも、数字をもとに客観的に判断することが重要です。
まず確認すべきは固定資産税の年額です。福岡市内の戸建て住宅の場合、土地・建物合わせて年間5万円から15万円程度が一般的ですが、築年数や立地条件によって大きく変動します。固定資産税は毎年4月頃に納税通知書が届くため、前年度の納税額を確認しておきましょう。
次に、空き家管理の年間コストを見積もります。福岡市内で空き家管理サービスを利用する場合、月額5,000円から1万円程度が相場です。年間では6万円から12万円のコストがかかります。自分で管理する場合でも、定期的な草刈り、換気、郵便物の整理などで交通費や時間的コストが発生します。
解体費用も重要な判断材料です。福岡市内の木造戸建て住宅の解体費用相場は、建物の規模にもよりますが80万円から150万円程度です。ただし、解体すると固定資産税の住宅用地特例が適用されなくなり、土地の固定資産税が最大6倍に跳ね上がる点に注意が必要です。
最後に、売却可能性を客観的に判断します。福岡市内の不動産業者に査定を依頼し、「実際に買い手がつく価格」を確認しましょう。築年数が古い、立地が悪い、再建築不可などの条件が重なると、査定額がゼロ、または解体費用分を差し引いた「マイナス査定」になることもあります。
これらの数字を総合的に判断し、相続後の維持費用が売却見込み額を上回る場合、または売却見込みがまったくない場合は、相続放棄を検討する合理的な理由があると言えます。
また、税金が6倍になる点については放置の放置リスクについてで詳しく解説しています。
相続放棄の「やってはいけない順番」実務で失敗しないために【最重要】
相続放棄を検討している方の多くが不安に感じるのが、「もう何かやっちゃってないかな…」という点です。相続放棄には法律で定められた厳格なルールがあり、順番を間違えると相続放棄そのものが無効になってしまいます。
特に注意が必要なのが「法定単純承認」という制度で、相続財産を処分したり、一部でも利用したりすると、法律上「相続を承認した」とみなされ、その後の相続放棄ができなくなります。
ここでは、福岡市内で実際に起きた失敗事例も交えながら、やってはいけない行為を具体的に解説します。
NG行為①:解体・リフォーム・売却してから相続放棄
最も重大な失敗が、相続財産である建物を解体・リフォーム・売却してから相続放棄を申し立てるというケースです。これらの行為は民法921条で定められた「法定単純承認」に該当し、相続を承認したものとみなされます。
法定単純承認が成立すると、その後に相続放棄の申述を行っても家庭裁判所に却下されてしまいます。一度承認したとみなされた相続を、後から取り消すことは原則としてできないのです。
福岡市内でも、「空き家を放置すると近隣に迷惑がかかる」と考えて先に解体してしまい、その後に相続放棄を申し立てたところ却下されたケースが報告されています。解体行為は明らかに「財産の処分」に該当するため、相続放棄は認められません。
同様に、リフォームや大規模修繕も処分行為とみなされます。たとえば、屋根の全面張り替え、外壁の塗装、水回りの設備交換などは、財産の価値を維持・向上させる行為として、相続を承認したと判断される可能性が高くなります。
また、不動産の売却はもちろん、第三者に賃貸として貸し出す行為も処分にあたります。「相続放棄するつもりだったが、とりあえず家賃収入を得ておこう」という考えは通用しません。
では、どこまでなら許されるのでしょうか。法律上、「保存行為」は法定単純承認に該当しないとされています。保存行為とは、財産の現状を維持するための最低限の行為を指します。
- 雨漏りの応急処置(ブルーシートで覆う程度)
- 破損した窓ガラスの応急修理
- 庭の草刈り・清掃
- 換気のための定期的な訪問
- 郵便物の整理
これらは財産の価値を維持するための最低限の管理行為であり、相続放棄を妨げません。ただし、判断が難しいケースもあるため、大がかりな作業を行う前には必ず司法書士や弁護士に相談してください。






逆に言うとこの程度の行為しか保存行為に該当しないということですね。
良かれと思って行った行動も承認にあたるかもしれないことは覚えておきましょう。
NG行為②:固定資産税を払ってから相続放棄
意外と見落とされがちなのが、固定資産税の支払いと相続放棄の関係です。相続が発生した年の固定資産税は、通常4月頃に被相続人(亡くなった方)の名義で納税通知書が届きます。
この固定資産税を相続人が支払ってしまうと、「相続財産を処分した」または「相続を承認した」とみなされるリスクがあります。実務上の判断は分かれるところですが、少なくとも家庭裁判所が相続放棄を認めない理由の一つとして指摘される可能性は十分にあります。
福岡市の場合、固定資産税は年4回(6月・9月・12月・翌年2月)に分けて納付する仕組みになっています。相続発生後、納税通知書が届いても、相続放棄を検討している段階では安易に支払わないことが重要です。
では、督促状が届いた場合はどうすればよいのでしょうか。まず、督促状が届いたからといって慌てて支払う必要はありません。相続放棄を検討している旨を福岡市の納税管理課に連絡し、相続放棄の手続き中であることを伝えてください。相続放棄が受理されれば、納税義務も消滅します。
ただし、相続放棄の申述が却下された場合や、申述をしなかった場合は、最終的に相続人として納税義務を負うことになります。その際は延滞金が発生する可能性もあるため、相続放棄の判断は早めに行うことが重要です。
なお、すでに固定資産税を支払ってしまった場合でも、金額が少額であり、他に相続を承認したと判断される行為がなければ、相続放棄が認められるケースもあります。諦めずに専門家に相談してください。
NG行為③:家財を処分・持ち出してから放棄
相続財産には不動産だけでなく、家の中にある家財道具や遺品も含まれます。これらを勝手に処分したり、持ち出したりすると法定単純承認に該当する可能性があります。
特に注意が必要なのが、価値のある財産の扱いです。たとえば、貴金属、骨董品、美術品、高額な家電製品などは、明らかに経済的価値のある財産として扱われます。これらを持ち出して自宅に保管したり、売却したりすると、相続を承認したとみなされます。
では、形見分けや思い出の品はどうでしょうか。故人の写真、手紙、衣類など、経済的価値がほとんどない物品については、社会通念上許容される範囲での形見分けは問題ないとされています。ただし、高価なブランド品の衣類や、貴金属が含まれるアクセサリーなどは、慎重に判断する必要があります。
遺品整理のタイミングも重要です。相続放棄を検討している段階では、大規模な遺品整理や家財の処分は避けるべきです。相続放棄が正式に受理された後、または相続財産清算人が選任された後に、清算人の指示のもとで処分を行うのが安全です。
また、家の中に残されている預金通帳や印鑑、権利証などの重要書類についても、勝手に使用してはいけません。預金を引き出す行為は明確な財産の処分にあたり、相続放棄が認められなくなります。
- 価値のある家財(貴金属・骨董品)を持ち出す
- 預金通帳から現金を引き出す
- 不動産の権利証を使って登記手続きを行う
- 自動車を売却または名義変更する
- 株式や有価証券を売却・名義変更する
これらは明確な法定単純承認事由に該当します。相続放棄を検討している段階では、絶対に行わないでください。






個人的な意見としては、亡くなる側は生前整理をしっかりしておくことが、子供にとっては一番助かります。
「買った時は高かったから…せっかく集めたから…」みたいなのは、残された側が最も困ります。
正しい順番:相談→放棄申述→管理責任の引継ぎ
ここまでNG行為を解説してきましたが、では正しい手順はどうすればよいのでしょうか。福岡市内で相続放棄を検討する場合の正しいステップを確認しましょう。
相続が発生したら、まず司法書士または弁護士に相談してください。福岡市内には相続に詳しい専門家が多数います。相談時には、被相続人の財産目録、負債の有無、不動産の状況などを整理して持参すると、的確なアドバイスが受けられます。
福岡市住宅都市局が実施している無料相談(司法書士による空き家相談)も活用できます。
相続放棄は、相続の開始を知った日から3か月以内に手続きを行う必要があります。福岡家庭裁判所に「相続放棄申述書」と必要書類(戸籍謄本、住民票など)を提出します。申述書の作成は司法書士に依頼することもできます。期限が迫っている場合は、期間延長の申立ても可能ですが、特別な事情が必要です。
相続放棄が受理された後も、「現に占有している」場合は管理責任が残ります。この管理責任から完全に解放されるには、福岡家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立て、清算人に財産を引き渡す必要があります。申立てには予納金(50万円~100万円程度)が必要です。詳しい手続きについては次のセクションで解説します。
この順番を守ることで、法定単純承認のリスクを回避しながら、適切に相続放棄の手続きを進めることができます。特に重要なのは、何かを処分したり支払ったりする前に、必ず専門家に相談するという点です。
福岡市内には相続に強い司法書士・弁護士が多数いますので、早めに相談して正しい判断を行いましょう。
【2023年民法改正対応】相続放棄後の管理義務はどうなる?
相続放棄をすれば管理責任から完全に解放されると考えている方も多いですが、実際にはそうではありません。2023年4月に施行された改正民法により、相続放棄後の管理義務の範囲は明確化されましたが、一定の条件下では引き続き管理責任を負うことになります。
ここでは、改正前後の違いと、実際にどのような場合に管理義務が残るのかを解説します。






社会的背景から今後かなり増えてくるケースだと思われます。相続放棄を検討している方、兄弟、姉妹などと積極的に連絡を取っていない方など、この法改正は必ず把握しておくことをおすすめします。
改正前と改正後の違い|「相続放棄=管理義務ゼロ」ではない
旧民法940条では、「相続放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、財産の管理を継続しなければならない」と定められていました。
この規定は非常に曖昧で、相続放棄をしても次の相続人が管理を始めるまでは責任が残るという解釈が取られていました。つまり、相続人全員が相続放棄した場合、最後に放棄した人が延々と管理責任を負い続けるという問題がありました。
2023年4月施行の改正民法940条では、この点が明確化されました。新しい条文では「相続放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人または相続財産清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、財産を保存しなければならない」と変更されています。
この改正により、「現に占有している」場合のみ管理義務が残ることが明確になりました。逆に言えば、占有していない相続人には管理義務が発生しないということです。
福岡市内での実務的な影響としては、遠方に住んでいて被相続人の不動産を一度も使用していない相続人が相続放棄した場合、基本的に管理義務は発生しません。一方、同居していた相続人や、鍵を持って定期的に管理していた相続人は、引き続き管理義務を負う可能性が高くなります。
「現に占有している」とは?【実例で解説】
改正民法で重要なキーワードとなる「現に占有している」とは、具体的にどのような状態を指すのでしょうか。
法律上の「占有」とは、物を自分の支配下に置いている状態を意味します。不動産の場合、物理的にその場所に住んでいる状態が典型的な占有ですが、それだけではありません。
同居していた場合は、明らかに占有していたと判断されます。被相続人と一緒に暮らしていた相続人が相続放棄をしても、引き続き管理義務を負います。たとえば、福岡市内の実家で親と同居していた子が相続放棄した場合、その子は相続財産清算人に引き渡すまで管理責任を負い続けます。
別居だが鍵を持っている場合は、状況次第で判断が分かれます。単に鍵を保管しているだけでは占有とは言えませんが、定期的に訪問して換気や清掃を行っていた場合は、事実上の管理者として占有していたと判断される可能性があります。
遠方に住んでいる場合は、原則として占有していないと判断されます。たとえば、福岡市内の実家を相続することになったが、相続人自身は東京や大阪など遠方に住んでおり、被相続人の死亡後も一度も訪問していない場合は、占有していないため管理義務は発生しません。
ただし、遠方に住んでいても、相続発生後に自ら鍵を取りに行き、家の中の整理や清掃を始めた場合は、その時点から占有が始まったと判断される可能性があります。相続放棄を検討している場合は、安易に不動産に立ち入らないことが重要です。
管理義務の具体的な内容|何をどこまでやるべきか

相続放棄後も管理義務が残る場合、具体的に何をしなければならないのでしょうか。民法では「自己の財産におけるのと同一の注意をもって保存しなければならない」と定められています。
まず重要なのが倒壊防止です。福岡市は台風の通り道にあたり、毎年夏から秋にかけて強風被害が発生します。老朽化した建物の屋根瓦が飛散したり、外壁が崩落したりすると、近隣住民に被害を及ぼす可能性があります。最低限、台風前後には建物の状態を確認し、危険箇所があれば応急処置を行う必要があります。
次に害虫・害獣対策です。空き家は蚊やゴキブリ、ネズミなどの温床になりやすく、近隣住民から苦情が出る原因となります。福岡市内でも、空き家から大量の蚊が発生して近隣に被害が及んだケースが報告されています。定期的な換気や清掃、庭の草刈りなどで最低限の衛生状態を保つ必要があります。
不法侵入防止も管理者の責任です。空き家は不法侵入や放火のリスクが高く、実際に福岡市内でも空き家への不法侵入事件が発生しています。戸締まりを確認し、必要に応じて防犯カメラの設置や近隣住民への声かけを行うことが望ましいでしょう。
近隣への迷惑防止として、庭木の越境にも注意が必要です。福岡市内では、空き家の庭木が隣地に越境し、落ち葉や枝が隣家の敷地に落ちてトラブルになるケースが多く見られます。定期的な剪定や草刈りを行い、近隣に迷惑をかけないよう配慮する必要があります。
これらの管理を怠った結果、近隣住民や第三者に損害を与えた場合、損害賠償責任を負う可能性があります。管理義務から完全に解放されるには、後述する相続財産清算人の選任が必要です。
相続財産清算人の選任|費用と手続きの実際【福岡家裁】
相続放棄後の管理義務から完全に解放される唯一の方法が、相続財産清算人の選任です。清算人に財産を引き渡すことで、ようやく管理責任から解放されます。ただし、選任には相応の費用と時間がかかるため、手続きの内容を事前に理解しておくことが重要です。
相続財産清算人とは?役割と選任の流れ
相続財産清算人とは、相続人がいない、または全員が相続放棄した場合に、家庭裁判所が選任する財産管理人のことです。清算人は中立的な立場で相続財産を管理し、最終的に処分や清算を行います。
清算人の主な役割は、まず相続財産の調査と目録作成です。不動産、預貯金、負債など、被相続人が残したすべての財産を調査し、リストアップします。次に債権者への通知と弁済を行います。被相続人に借金や未払いの債務がある場合、官報に公告して債権者を募り、財産の中から優先的に弁済します。
その後、不動産や動産の売却処分を進めます。空き家の場合は不動産業者を通じて売却を試みますが、買い手がつかない場合は競売にかけることもあります。すべての債務を弁済し、財産を処分した後、残余財産があれば国庫に帰属させます。
福岡家庭裁判所での選任申立ては、利害関係人または検察官が行うことができます。相続放棄をした人も利害関係人として申立てが可能です。申立てに必要な書類は、申立書、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本、相続放棄申述受理証明書、不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書などです。
福岡家庭裁判所の所在地は福岡市中央区六本松4丁目2番4号です。申立ては郵送でも可能ですが、書類に不備があると補正が必要になるため、司法書士や弁護士に依頼するのが確実です。
選任にかかる費用|予納金の相場と負担者
相続財産清算人の選任には、予納金と呼ばれる費用の納付が必要です。予納金は清算人の報酬や管理費用に充てられるもので、相続財産の中から支払われる見込みがない場合、申立人が事前に納付しなければなりません。
福岡家庭裁判所における予納金の相場は、50万円から100万円程度です。相続財産の規模や複雑さによって金額は変動します。たとえば、不動産が1件のみで負債がない単純なケースでは50万円程度、複数の不動産があり債権者も多い複雑なケースでは100万円以上になることもあります。
予納金に加えて、申立手数料として収入印紙800円、官報公告費用として約5,000円程度が必要です。また、司法書士や弁護士に申立て手続きを依頼する場合は、別途報酬として10万円から20万円程度がかかります。
予納金の負担者は原則として申立人です。相続放棄をした人が管理義務から解放されるために申し立てる場合、その人が予納金を負担することになります。ただし、相続財産の中に十分な現金や売却可能な不動産がある場合は、清算手続きの中で予納金が返還されることもあります。
予納金の負担は決して軽いものではありません。そのため、相続放棄を検討する段階で、清算人選任にかかる費用も含めて総合的に判断することが重要です。






基本的にはどの選択肢もある程度の金額が必要になるため、相続に関しては「できるだけ準備しておく」が最も大切だと色んな方を見ていて感じます。
選任後の流れ空き家はどう処分されるか
相続財産清算人が選任されると、まず清算人による財産調査が行われます。不動産の現地確認、登記簿の確認、固定資産評価額の調査などを経て、財産目録が作成されます。この段階で、空き家の状態や売却可能性も判断されます。
債権者がいる場合は、官報に公告を出して債権の申し出を募ります。公告期間は2か月以上です。債権者から申し出があれば、相続財産の中から優先的に弁済が行われます。
空き家の処分方法は、まず任意売却が試みられます。清算人は不動産業者に査定を依頼し、買い手を探します。福岡市内の物件であれば、立地条件次第では買い手が見つかる可能性もあります。ただし、前述したような再建築不可物件や老朽化が著しい物件は、売却が困難なケースも多くあります。
任意売却で買い手がつかない場合は、競売にかけられることもあります。競売では市場価格より安い価格で落札されることが一般的ですが、それでも売却できれば債務の弁済や清算手続きに充てられます。
競売でも売却できない場合、最終的には国庫に帰属させる手続きが取られます。ただし、国も管理コストがかかる不動産を積極的に引き取るわけではないため、実質的に放置状態になることもあります。
清算手続きがすべて完了するまでには、通常6か月から1年程度の期間がかかります。複雑なケースではさらに時間がかかることもあります。その間、清算人が財産を管理するため、申立人は管理責任から解放されます。
相続放棄以外の選択肢|福岡市の支援制度も活用する
相続放棄が唯一の解決策というわけではありません。相続財産の内容や状況によっては、相続した上で活用・処分する方が有利な場合もあります。
特に福岡市には空き家対策の支援制度や税制上の特例措置があり、これらを活用することで負担を軽減できる可能性があります。ここでは相続放棄以外の選択肢を紹介します。
選択肢①:相続土地国庫帰属制度を利用する
2023年4月に施行された相続土地国庫帰属制度は、相続した土地を国に引き取ってもらえる新しい制度です。相続放棄とは異なり、土地だけを手放すことができるため、預貯金などの他の財産は相続したい場合に有効です。
この制度を利用するには、いくつかの要件を満たす必要があります。建物が建っていない更地であること、担保権や使用収益権が設定されていないこと、境界が明確であること、土壌汚染や埋設物がないことなどが条件です。
福岡市内の土地でも制度の利用は可能ですが、却下されやすいケースもあります。崖地を含む土地、通路など他の土地に囲まれて道路に接していない土地、隣地との境界争いがある土地などは引き取ってもらえません。また、管理に過分な費用や労力がかかる土地も対象外となります。
費用面では、審査手数料として土地1筆あたり14,000円、承認後には10年分の土地管理費相当額として負担金を納付する必要があります。負担金は地目や面積によって異なりますが、宅地の場合は面積に応じて20万円程度からとなります。
申請先は法務局で、福岡法務局またはその支局で手続きが可能です。ただし、建物がある場合は先に解体して更地にする必要があるため、解体費用も考慮する必要があります。
選択肢②:空き家特例(3,000万円控除)で売却する

被相続人が一人で住んでいた家を相続し、一定の要件を満たして売却する場合、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例があります。これを「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」と言います。
適用要件は、相続開始直前に被相続人が一人で居住していたこと、昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること、相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること、売却価格が1億円以下であることなどです。
福岡市で特例を利用する場合、売却前に福岡市から「被相続人居住用家屋等確認書」を取得する必要があります。この確認書は、福岡市住宅都市局事業調整課で発行されます。申請には、被相続人の除票、相続人の戸籍謄本、家屋の登記事項証明書、電気・ガス・水道の閉栓証明書などが必要です。
詳しい手続きについては、福岡市の公式サイトで確認できます。この特例を活用すれば、相続した空き家を売却しても税負担を大幅に軽減できるため、相続放棄するよりも経済的に有利になるケースもあります。
選択肢③:解体助成金+更地売却を検討する
福岡市では、老朽化した危険な空き家の解体に対して助成金を交付する「老朽空家等除却促進事業」を実施しています。一定の要件を満たせば、解体費用の一部補助を受けられます。
助成対象となるのは、市が定める基準で老朽度が高いと判定された空き家です。具体的には、昭和56年5月31日以前に建築された木造住宅で、1年以上使用されていないことなどが要件となります。助成額は解体費用の一部で、上限額は自治体によって異なります。
ただし注意が必要なのは、建物を解体して更地にすると固定資産税が大幅に上がる点です。住宅用地には固定資産税の軽減措置があり、土地の課税標準額が6分の1に減額されていますが、建物を解体するとこの特例が適用されなくなります。
そのため、解体助成金を利用する場合は、解体後すぐに売却できる見込みがあるかどうかを事前に確認することが重要です。更地にしても買い手がつかない場合、固定資産税の負担だけが増えてしまいます。解体の是非については、「リンク:福岡市で古い家を壊して「更地」にするメリット・デメリット」で詳しく解説していますので、そちらも参考にしてください。
選択肢④:福岡市の無料相談窓口を活用する
福岡市では、空き家に関する無料相談窓口を設けています。相続した空き家をどうすべきか迷っている場合、まずはこの窓口に相談することをおすすめします。
福岡市住宅都市局事業調整課では、司法書士による無料相談を実施しています。相談は予約制で、相続手続き、相続放棄、不動産の名義変更、売却方法などについて専門家のアドバイスを受けられます。
相談時には、不動産の登記事項証明書、固定資産税納税通知書、被相続人の除票、相続人の戸籍謄本などを持参すると、より具体的なアドバイスが得られます。相談は無料ですが、実際の手続きを依頼する場合は別途費用が発生します。
予約や詳細については福岡市の公式サイトで確認できます。一人で悩まず、まずは専門家に相談することが、最適な判断への第一歩となります。
福岡市内で相続放棄を相談できる専門家と選び方
相続放棄の手続きは法律的な知識が必要であり、専門家のサポートを受けることが望ましいです。ただし、専門家にはそれぞれ得意分野があり、相談内容によって適切な専門家が異なります。
ここでは、福岡市内で相続放棄を相談する際の専門家の選び方を解説します。
司法書士:相続放棄の申述書作成と提出代行
相続放棄の手続きで最も一般的に利用されるのが司法書士です。司法書士は家庭裁判所への申述書作成と提出代行を行うことができます。
福岡市内での費用相場は3万円から5万円程度です。この費用には、申述書の作成、必要書類の収集代行、家庭裁判所への提出、受理通知書の受領までが含まれます。相続人が複数いる場合は、1人あたりの費用が加算されることもあります。
司法書士を選ぶ際は、相続案件の実績が豊富な事務所を選ぶことが重要です。福岡県司法書士会では相続に関する相談窓口も設けており、まずはそこで相談してから依頼する司法書士を決めることもできます。
弁護士:紛争性がある場合・損害賠償リスクがある場合
相続人間で意見が対立している場合や、すでに近隣住民から損害賠償を請求されている場合は、弁護士への相談が必要です。弁護士は法律的な紛争解決や交渉を代理できます。
福岡市内での費用相場は、相談料が30分5,000円程度、相続放棄の手続き代行で10万円から15万円程度です。紛争案件の場合はさらに費用がかかります。
福岡県弁護士会では法律相談センターを設けており、初回30分の相談が無料または低額で受けられます。まずはこうした窓口を利用して、自分のケースに弁護士が必要かどうかを判断するとよいでしょう。
行政書士:相続財産の調査・書類収集
相続放棄の前段階として、被相続人の財産や負債を調査する必要がある場合は、行政書士に依頼できます。行政書士は戸籍謄本や住民票などの公的書類の取得代行、相続関係説明図の作成などを行います。
ただし、行政書士は家庭裁判所への申述書提出の代理はできません。あくまで書類収集や財産調査のサポート役として活用し、実際の相続放棄手続きは司法書士や弁護士に依頼する必要があります。
宅建士・FP:不動産の処分可能性を事前診断
相続放棄を決断する前に、不動産の売却可能性や活用方法を検討したい場合は、宅建士資格を持つ不動産業者やファイナンシャルプランナーに相談することが有効です。
宅建士は不動産の査定や売却可能性の診断を行います。相続した不動産が実際にいくらで売れるのか、買い手がつく見込みはあるのかを客観的に判断してもらえます。福岡市内の地域特性や不動産市況に詳しい業者であれば、より正確な判断が期待できます。
ファイナンシャルプランナーは、相続後の税負担や維持費用のシミュレーションを行います。固定資産税、管理費用、解体費用などを総合的に計算し、相続するか放棄するかの判断材料を提供してくれます。
特に、解体すべきか保持すべきか、売却すべきか賃貸にすべきかといった判断は、不動産とファイナンスの両方の知識が必要です。福岡市の地域特性を理解した専門家に相談することで、より適切な判断ができます。
【Q&A】福岡市の相続放棄でよくある質問
相続放棄の手続きや管理責任について、実務でよく聞かれる質問をまとめました。福岡市特有の事情も含めて回答します。
- 相続放棄すれば自動的に国が引き取ってくれますか?
-
いいえ、相続放棄しただけでは国は引き取りません。相続放棄が受理された後、家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立て、清算手続きを経て初めて、売却不能な財産が最終的に国庫に帰属します。清算人が選任されるまでの間は、現に占有している場合は管理義務が残ります。
いいえ、相続放棄しただけでは国は引き取りません。相続放棄が受理された後、家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立て、清算手続きを経て初めて、売却不能な財産が最終的に国庫に帰属します。清算人が選任されるまでの間は、現に占有している場合は管理義務が残ります。
- 相続放棄した後も固定資産税の納税通知書が届きました。払う必要はありますか?
-
基本的に払う必要はありません。相続放棄が受理されれば、相続人としての地位を失うため、固定資産税の納税義務も消滅します。納税通知書が届いた場合は、福岡市の納税管理課に連絡し、相続放棄申述受理通知書のコピーを提出することで、納税義務がないことを証明できます。
ただし、納税通知書が届いたからといって慌てて支払ってしまうと、相続を承認したとみなされるリスクがあります。まだ相続放棄の手続き中であれば、絶対に支払わないでください。
- 他の相続人が全員放棄した場合、自分だけ放棄しないとどうなりますか?
-
単独で相続することになり、すべての財産と負債を引き継ぐことになります。他の相続人が放棄したからといって、自動的にあなたも放棄したことにはなりません。
単独で相続することになり、すべての財産と負債を引き継ぐことになります。他の相続人が放棄したからといって、自動的にあなたも放棄したことにはなりません。
- 福岡市内の空き家を放置していたら近隣から苦情が来ました。損害賠償請求されますか?
-
管理義務違反として損害賠償請求される可能性があります。相続放棄後も現に占有している場合は管理義務が残るため、建物の倒壊、樹木の越境、害虫の発生などで近隣に実害が発生すれば、損害賠償責任を負います。
福岡市内では、空き家の屋根瓦が台風で飛散し隣家の車を損傷させたケースや、庭木が越境して隣地に落ち葉が大量に落ちたケースなどで、実際に損害賠償が発生しています。管理義務から解放されるには、早めに相続財産清算人の選任を申し立ててください。
- 相続放棄の期限(3か月)を過ぎてしまいました。もう手遅れですか?
-
特別な事情があれば、期限を過ぎても相続放棄が認められる場合があります。たとえば、相続財産の存在を知らなかった、遠方に住んでいて連絡が取れなかったなど、やむを得ない理由がある場合です。
特別な事情があれば、期限を過ぎても相続放棄が認められる場合があります。たとえば、相続財産の存在を知らなかった、遠方に住んでいて連絡が取れなかったなど、やむを得ない理由がある場合です。
- 相続放棄後、家の中の遺品整理はどうすればいいですか?
-
相続財産清算人が選任されるまでは、原則として遺品整理を行わないでください。家財道具も相続財産に含まれるため、勝手に処分すると法定単純承認に該当する可能性があります。
ただし、写真や手紙など経済的価値がほとんどない思い出の品については、社会通念上許容される範囲での形見分けは問題ありません。判断が難しい場合は、清算人選任後に清算人の指示を仰ぐのが安全です。
まとめ|福岡市で負動産を相続したら、まず「順番」を確認する
福岡市内で負動産を相続した場合、相続放棄は有効な選択肢の一つですが、手続きには正しい順番があり、それを守らなければ放棄そのものが無効になってしまいます。この記事の要点を改めて整理します。
まず、相続放棄は相続開始を知った日から3か月以内に手続きが必要です。この期限を過ぎると原則として相続放棄ができなくなります。また、解体や固定資産税の支払いなど、相続財産を処分する行為を先に行うと、法定単純承認とみなされ相続放棄が認められません。必ず専門家に相談してから行動してください。
次に、2023年4月の民法改正後も、相続放棄すれば完全に管理責任から解放されるわけではありません。現に占有している場合は、相続財産清算人に引き渡すまで管理義務が残ります。同居していた場合や、鍵を持って定期的に管理していた場合は占有していたとみなされる可能性が高いです。
また、相続放棄すれば自動的に国が引き取ってくれるというのは誤解です。管理義務から完全に解放されるには、福岡家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てる必要があります。選任には50万円から100万円程度の予納金が必要で、決して安くはありません。
相続放棄以外にも選択肢があることを忘れないでください。相続土地国庫帰属制度、空き家特例による売却、解体助成金の活用など、状況によっては相続した上で処分する方が経済的に有利な場合もあります。福岡市の無料相談窓口も活用しながら、最適な判断を行いましょう。
判断に迷ったら、まずは福岡市住宅都市局の無料相談窓口に相談してください。司法書士や弁護士、宅建士など、複数の専門家の意見を聞きながら、自分の状況に合った最善の方法を選ぶことが重要です。

